10月4日(金)、JAIP美術鑑賞会として、『没後300年記念 英一蝶 風流才子、浮き世を写す』をサントリー美術館に見に行きました。
都内の美術館のなかには、金曜日の夜だけ20時まで開館しているところがあります。このサントリー美術館もその一つです。仕事が終わったあとに行けるのがいいですね。
サントリー美術館は、六本木の東京ミッドタウンの中にあります。平日の夕方ということで、人影はまばらでした。でも、美術館の中に入ってみると、人がけっこういて、驚きました。
以下はその感想です。
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英一蝶(はなぶさいっちょう)のことを、はずかしながら全く知らなかった。
元々日本画にそれほど詳しくなく、浮世絵なら、歌川国芳の巨大な骸骨の描かれているものとか、月岡芳年の血みどろ絵みたいな、派手な、わかりやすいものが好きで、あとはかろうじて鈴木春信の美人画は色づかいがきれいでカワイイから好き、という程度。
でもこの展覧会のポスターは、赤い着物でかろやかに舞を舞う女性のわきに、「この世は滑稽 ―― だから愛おしい。」と書いてあり、にわかに英一蝶という人に興味がわいた。
英一蝶は、狩野安信に師事し、早くから人気の絵師になったようであるが、47歳の時に罪を犯して三宅島に流罪になっている。島で描いたものは「島一蝶」として高く評価されているそうだ。恩赦で59歳のときに江戸にもどり、再び人気絵師として活躍した。
絵師のかたわら、吉原にも出入りし、客としてだけでなく幇間(たいこもち)としても活動していた、というところが面白い。島流しになった罪というのがはっきりしていないが、吉原での遊女の身請けに関することだったという一説もあり、幇間としてなにか「しくじり」があったのかもしれない。
展示は、年代順に配されていて、はじめは島流しになる前に名乗っていた「多賀朝湖(たがちょうこ)時代」。ここは、「吉野・龍田図屏風」がよかった。六曲一双(ろっきょくいっそう)という、六つ折りの屏風が左右で1セットある大作だ。春の吉野と、秋の龍田の風景が描かれているのだが、小さい人物があちこちに見られる。これは、ブリューゲルの「バベルの塔」同様、細かいところを楽しむための作品だろう。だが残念なことに、老眼の始まった我が眼(まなこ)では、そのこまかいところが、見えない。ふと隣りを見ると、小さい単眼鏡を目に当ててみている人が。その向こうにはオペラグラスのようなもので見ている人も。なんと用意周到な。私も今度から美術鑑賞にはオペラグラスを持参しよう、と心に誓う。
次の「島一蝶」の時代のものは、実を言うと一番ピンと来なかった。もしかしたら、展覧会の後期の展示作品に傑作があるのかもしれない。ポスターとなった「布晒舞図」も、後期の展示で、見ることができなかった。
最後の「英一蝶時代」は、なんといってもメトロポリタン美術館所蔵の「舞楽図・唐獅子図屏風」が圧巻だった。こちらも六曲一双で、色使いが鮮やかだし、舞っている者たちの着物が華やかで、構図も印象的だ。この絵だけ写真撮影OKだった。(写真左、下)
「釈迦十六善神図」も、絢爛豪華。見ていて楽しい。
しかし今になって思い返してみると、初期にも晩年にもあった「雨宿り」の図が、なぜか印象に残っている。きゅうな雨に降られて、どこかの軒先で見ず知らずの人々が思い思いに雨宿りをしている。横木にぶらさがっている子供や、いっしょにおとなしく雨宿りしている犬、疲れたような顔をしていたり、楽しそうな顔をしていたりする物売りたち。破れ傘で背中を丸めて歩いていく人。市井の人を見る一蝶のまなざしは、やさしい。
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さて、美術鑑賞会の後は、居酒屋に移動してささやかな懇親会を開きました。六本木の駅からすぐなのに、路地の奥まったところにあって、知る人ぞ知る、大衆的なお店です。
久しぶりにJAIPのほかの会社の方々にお会いできて、各自思い思いに美術鑑賞をし、そのあとはともに楽しく飲食できて、とても楽しかったです。
こんな感じで、ゆるく活動していきますので、初めての方もぜひご参加ください。
(MHM 遠藤尚子)
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